はじめに
獣医という道に進んでから「狂犬病って日本で発生してないのに打たなきゃいけないの?」という質問をされることが度々あります。そういう時は私は
・万が一海外から流入してきた時の為
・犬が他人を噛んだ時にワクチンを打っていないと脳を解剖しなければいけない可能性がある
・集団免疫が云々。シャルルニコルの法則が云々。
・日本の犬では狂犬病は発生していないけど野生動物間で保持されてる可能性は0じゃないから
などと説明してはいたのですが正直あまり実感が湧いていない様子(そりゃそうだ)。実際私自身も必要性自体はよく分かっているもののなんか現実味に欠けるというか、すごくピンポイントなリスクの可能性に備えている感じでしっくりしていませんでした。
なので、「何か上手い説明出来るようにならないかなあー。」と思って色々調べているといい感じの論文を見つけることができたので今回はそれを紹介したいと思います。
Benefit-cost analysis of the policy of mandatory annual rabies vaccination of domestic dogs in rabies-free Japan
Nigel C. L. Kwan, Akio Yamada, Katsuaki Sugiura
Published: December 17, 2018https://doi.org/10.1371/journal.pone.0206717Link→https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0206717
目次
そもそも狂犬病とは
狂犬病がどのような病気かは既に詳しく解説してあるサイトが沢山あるので概要だけ
・日本では原発したのは1957年が最後(海外で犬に噛まれて日本で発症したのは2006年が最後)
・人や犬だけでなく全ての哺乳類に感染できる
・人間への感染源は殆どが犬(犬:80% 猫:10%)
・傷口から神経を通ってウイルスが移動し、脳に到達すると脳炎を発症し死亡する
・致死率は100%だがワクチンで予防可能
・生ワクチンではなく不活化ワクチンなのでワクチンから感染することは理論上ない
・ワクチンの値段は大体3550円(初めての接種だと登録代を含めて約6550円)
結論から言うと
早く結論を知りたい人もいると思うので先に言ってしまうと。
狂犬病ワクチンを接種するにあたって飼い主の負担となる費用(ワクチン代、シリンジ代、人件費、移動費、病院の純利益)及び、国の狂犬病ワクチン接種の為の注意喚起(ハガキ、集団接種イベントの開催費)に掛かる費用など様々なコストが発生するが、それを踏まえても狂犬病ワクチンを接種した方が最終的にコスト削減になるとのことでした。
なぜ狂犬病ワクチンの接種でコスト削減に繋がるか
一見すると
狂犬病ワクチンを打たない=ワクチン代が浮く
という方程式が成り立ちそうな気がしますが実際にはそうではなく、ワクチン接種を廃止した場合、狂犬病が発生していないか確認するために定期的な疫学調査を行う必要性が出てきます。また犬による咬傷被害者が出た場合の対応として6回程の緊急ワクチンやグロブリンの接種を行う必要性が高まります。
また咬傷被害が出ていなくても攻撃的な犬(飼い犬、野良犬を問わず)の監視・指導・保護を行う為にもコストが必要となるので結果的にワクチンを接種した方がメリット大きいということですね。また論文内でも
日本では長い間狂犬病が発生していないためもし発生した場合は2013年の台湾の様に、大きなパニックになることが予想される
と述べられており、万が一にも狂犬病を発生させてはいけないということですね。
ワクチン接種の頻度は下げられるか
「ワクチンが必要なのは分かっているけど毎年打つのは面倒くさい」「2、3年ごとでもいいのでは?」という人もいると思います(私もそう思ってました)。それに関してもこの論文では触れています。
簡単に言うと日本に狂犬病が侵入する確率は
毎年ワクチンを打っている場合 :2万7500年に1件
2、3年おきのワクチン接種の場合:265年に1件
だそうです。確かに予防は出来そうですが確率はかなり変わってくるようですね。
さいごに
全体的に難しい話になってしまいましたがこれにて論文の紹介は以上になります。
最後に、もしも「ワクチンは接種したいけど犬の体調的に厳しい」という場合は狂犬病猶予証明書 というものを動物病院で発行してもらうことが出来るので春にハガキが届いいてから放置している方は1度かかりつけの病院へ行ってみてください。フィラリアの予防も忘れずに!